「私にとって現代アートは社会につながる無限の窓、自分をみつめる鏡です。」第二回講師 桒野晴美さん 

私は美術の専門家ではありません。


家族の転勤にともない、子育て期の10数年を暮らした地方都市に、たまたま音楽、演劇、美術の複合文化施設、水戸芸術館がありました。その恩恵をたっぷり受けた暮らしの中で、現代アートと出会い、子ども連れでボランティアやワークショップに参加しては、遠くのどこかではない身近な景色を再発見する楽しみを知り、地域の魅力ある人たちと関わることができました。

作品をきっかけに世の中で起きている出来事や社会問題を知り、自分探しの旅がはじまりました

現代アートはまさに今そのもの。作品をきっかけに世の中で起きている様々な出来事、社会問題を知り、さらにどう思うか、どう感じるかをつぶさにみつめることで自分探しの旅がはじまりました。それはまるで、年に数回ギャラリーからおくられてくる「宿題」のようでした。


現在は来館者と一緒に作品鑑賞をするボランティアとして活動中。今回は、私の出会った印象的な作品やそれにまつわるできごとをご紹介しながら、ひとりで、ふたりで、あるいは子どもとの現代アートの味わい方を共有したいと思っています。

都内に引っ越してきた今も、企画展会期中に数度、来館者とともに作品鑑賞のナビを務めます。(リハーサルの様子)
都内に引っ越してきた今も、企画展会期中に数度、来館者とともに作品鑑賞のナビを務めます。(リハーサルの様子)

「小さい人を連れてきてもいいのよ。」そこから私の「現代アートのある暮らし」は始まりました

さて、とある春の日。車内で激しく泣く赤ちゃんと一緒にホームに降り立ったお母さんに「大丈夫?お手伝いすることありますか?」と声をかけたら、ほろほろと泣きだしてしまいました。もう一歳になろうとするボク、「人見知りと後追いが激しくて一日家でふたりきり、どう過ごしていいかわからない」と・・・。

こんなに情報があふれているのに、そんなふうに悩んでいるママが都会にもいることを知りました。


「小さい人を連れてきてもいいのよ。」と言ってくれたのは、母世代よりもう少し年上のボランティアさんでした。ギャラリーに一歩踏み込むきっかけができたことも、わけのわからない作品の謎解きの楽しさを知ることができたのも彼女の存在があったから。この出会いがなかったら、私ももしかしたら電車の中の彼女のように育児に一人で悩んでいたかもしれません。

その後パッタリとお会いする機会もなかったのに、今年思いがけずギャラリーでそのボランティアさんに再会することができました。私は涙が出るほど嬉しかったのですが、彼女は私のことを憶えていないようでした。ちょっと残念であったことは否めませんが、不思議なことに、なんだかとても清々しく思えたのです。

今度は私が、その気持ちを違う誰かにおくろう。

振り返ってみて、「あのひと言で救われた」と思うことは、誰もが少なからず持っていることでしょう。その場で気づくこともあれば、ずっと後になるまで気づかないこともあるでしょう。思えば私もたくさんの人に支えられて日々をおくってきました。

ー直接会ってお礼が言えることなんて実はすごく少ないんじゃないか。


だとしたら、その気持ちを違う誰かにおくろう-

館がセッティングした送迎バスで来館した市内の中学生を見送る
館がセッティングした送迎バスで来館した市内の中学生を見送る

私にとって現代アートは社会につながる無限の窓、自分をみつめる鏡です。


「ひとりでみるのもいいけど、みんなでみるのも楽しいよね。」「私ってこんな人だった?」の発見と、「ちょっとごぶさただったけど、美術館に行ってみようかな。」のキモチのお手伝いをしたい。子育て中の人だけでなく、現代アート好きの人も、そうでない方も大歓迎!「現代アートのある暮らし」をご一緒に。