10月に開催した「肉を食べる」をテーマにしたシェアReadingの会に向けて読んだうちの1冊「イギリス肉食革命」。
子どもの頃の食卓といえば、その半分以上は魚と野菜だった。
この50年ほどの間に、日本の食卓は大きく変わり、肉の消費は大幅に増えている。
そのスタートはどこにあったのか。
「肉食革命」というタイトルに惹かれて手に取った。
ヴェジタリアンの元祖はピタゴラス!
ピタゴラスは、輪廻転生を信じており、不殺生の思想に基づいてヴェジタリアンの食事法を説いた。ギリシャローマ時代にはそれなりの影響力を持った考え方だったのだという。
一方初期のキリスト教には断食の伝統があり、中世には年のうち半分ほどは断食日とされていたともいう。
時代は下り、それは緩んでくるが、それでもまだ金曜は(肉を食べず)魚を食べる日とされていた。
ヘンリー8世の離婚問題から「魚の日」が形骸化!
しかし宗教改革によって、新教の多くが「魚の日はカトリックの古く悪しき伝統」として廃止。
特にイングランドではヘンリー8世が離婚問題でカトリックと手を切ったことから、ヨーロッパの中でも最もドラスティックな形で「魚の日」は形骸化する。
こうして16世紀にイングランド肉食革命が始まる。
(しかし、発端が面白すぎw。離婚に賛成しないならお前なんかとは手を切るって、、、w)
この反動としてピタゴラス式食事法(後のヴェジタリアン)はまた注目を浴びることになっても行くのである。
かつては羊毛をとるために育てられていた羊。
その品質を落としたとしても、庶民用の安価な肉を提供する必要があった。
他の家畜は農耕のための力になり、簡単に肉にするわけにはいかなかったのである。
羊巨大化のための品種改良は、こうして始まったのだという。
メンデルの法則再発見以前の品種改良って?
メンデルの法則がまだ再発見されていない頃に、品種改良はどうやって行われたのだろうか?当時のさまざまな「説」も紹介されていて興味深い。
今の時代から振り返れば笑ってしまうようなことも、一人一人の地道な積み重ね、蓄積によって初めてそれが違うことがわかってくる。
17世紀の初めから本格化してきた品種改良は、「改善の精神」を持って工夫を凝らしてきた、一人一人の名もない人たちの工夫があってこそ、その150年後にベイクウェルという著名なブリーダーが生まれた。
実は学者たちが遺伝の理論について考えるようになったのは、このタイミングからだったという。
一人の力ではなし得ないことが、歴史の視点でみると大きな流れとなっていることに感動を覚える。
肉を食べる時にちょっと考えてみたい
食は、政治、経済、社会、宗教、環境など、さまざまな要因によって変化していく。
そうして変化した食は、味覚や料理術はもちろん文化にも影響を与えていく。もちろん、社会にもそれが戻っていく。
食を中心に社会はよくも悪くも変わっていく。
私たちの食、社会はこれからどう変わっていくのだろう?
後の歴史学者からみたら、どういう時代に映るのであろう?
塩、胡椒だけでも美味しいと思えるような肉を口にする時、人の品種改良への情熱と食肉生産のシステム化によって、目の前にその肉が運ばれてくることになった長い歴史にちょっと思いを馳せてみたい、と思わせる本。
読みやすく、とてもおもしろい本だった。
同じ著者による「魚で始まる世界史」があるという。
これも近々読んでみたいと思う。
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